安城東高校へ入学を控えている皆さんへ

〇新しい制度による令和5年度高校入試選抜が終了し、「受験のための学習」は一段落しました。中3受験生のみなさんは、一つを成し終えました。お疲れ様でした。これからも、ひとつひとつを成し終えて、学習経験を積み重ねて、私たちは自分の生き方を定めていきます。

〇人生のある時期に、これまでのことを振り返ってみると、成し終えたひとつひとつがみなさんを守ってくれる知恵となっていることに気付くでしょう。詩人長田弘は次のように語っています。

「瞬間でもない・・、永劫でもない・・、過去でもない・・、一日がひとの人生をきざむもっとも大切な時の単位」である。「そのうちの1分ずつ、大切にできれば永遠より長いだろう。」(長田弘『一日の終わりの詩集』2000)

そのように時を捉えてみれば、「過ぎ去った時は、未来である」(長田弘『すべてきみに充てた手紙』2001)ことに気付きます。

◯私たちの身の回りの自然を見てみるならば、山や谷のある風景こそ美しい、と感じます。人生の美しさもそこにあると思います。私にとって、春という時期は、そんなことを考えさせてくれる時期です。みなさんは今、どんな気持ちでいますか。

〇ここで、今日の挨拶で触れることができなかった、入学式までの間に心に留め置いて欲しいことを校長として、最後の言葉として伝えます。

1 学校で学ぶこと(「学校知」)は、「世界の縮図」です!

学校教育12年間の総まとめ、言い換えれば、「世界の縮図」をまとまって学べる最後の機会、それが高校であるということです。学校は、歴史的には「暇な人の集まり」でした(「英語の「スクール」の語源である「スコーレ」は、働くことを免除されていた裕福な人たちが集まって、世のことを話し合っていたことに起源があります。)。やがて、「スコーレ」で学ぶことが価値あることと評価され、学校教育制度が世界で整備されました。日本では、まだ、150年(明治5年(1872年)の「学制」発布がその始まりでした。)の歴史しかありません。

このようなことを私が知ったのは、いつか。すべて高校時代です。今の学校で学ぶことが書かれているのが教科書です。人類の知恵をコンパクトにまとめてあるのが教科書ですから、具体的なことはわずかで、抽象的な文字や記号(数字)で表現せざるを得ないのです。それをみなさんは本日手にしました。

学校で学ぶことが退屈なこともあります。でも、だからといって、学ぶべき価値がないわけではありません。私も含めて、安城東高校を卒業した先輩たちは、こぞって、高校時代の学習の大切さを大人になって語り始めます。

少々退屈なことがあっても、皆で頑張るのです。それが、安城東高校です。あまりにも退屈でつまらなければ、先生に相談してください。でも、最後は、自分で自分をコントロールできる力を身につけてくださいね。高校3年間で「世界の縮図」を学べるなんて、スゴイじゃないですか!

2 言葉で表現する力を身に付ける最良の策は、知的な「雪かき」です!

作家村上春樹は、かつて「文化的雪かき」という言葉で作家の仕事を次のように語りました。

「『意識』というのは、心という池からくみ上げられたバケツ一杯の水みたいなもので、残りの領域は手つかずで、未知の領域として残されている。その未知の領域(意識できない領域)を言葉を使って『物語』化するのが作家の仕事」であると。

これは小説に限った話ではありません。皆さんがこれからする学校での様々な経験、出合う様々な分野の本の効用がここにあります。最近、ChatGPTという人工知能が一般化する動きがあります。人工知能の発達は、科学技術(人類の欲望)ですからどんどん進みます。ところが、その科学技術で成しえないものがあります。つまり、コンピュータアルゴリズムの論理や文法に規定される領域と私たちの感性に規定される生活には、大きな隔たりがあることを意識する必要があります。

私は、「センス・オブ・ワンダー」という言葉が好きです。これは、アメリカの環境保護活動家レイチェル・カーソンの著書名となっている言葉です。直訳すると、「驚きや感動の感覚、感覚的な不思議さ」ということです。これは、新しいものに出会ったり、美しいものを見たり、自然の力や神秘的なものに触れたりすることで、人が感じる感覚や能力を表現する言葉です。物事を新鮮な目で見ることは、創造性や発想力の源になります。今のところ、人工知能では成しえない領域ではないでしょうか。

「センス・オブ・ワンダー」をもって(クリック!)、広くて深い心という池からたくさんの水を汲み取り、それを言葉で自覚できるように経験を紡(つむ)ぐことが大切です。是非、高校入学までに複数冊の本(英文リーディングテキストも含む!)を読破(知的な「雪かき」)してきてください。

使ってないとすぐ忘れる、母国語でない英語も同じです。入学まで、必ず、しっかりと英語学習を続けてください!安城東の図書館には、新規購入した大量の多読英文テキストがありますから、お楽しみに。

3 「安城東の大いなる挑戦!それは・・・」が始まります!

令和5年度の新入生であるみなさんは、48回生です。みなさんが高校3年生になった時に、創立50周年を迎えます。そして、みなさんが安城東を卒業して50年経てば(68歳)、安城東は創立100周年です。みなさんは、創立50周年を体験し、創立100周年を同窓生として祝うことになります。

だから、私たちはみなさんの入学を特別の気持ちで待ち望んできました。みなさんは、安城東の新しい学校文化の担い手であるからです。次年度からの安城東の目標は、「安城東の大いなる挑戦!それは・・・」です。「それは・・・」の「・」に何が当てはまるか?それをみなさんに考えて欲しいと思っています。学校、生徒会もすでに準備を始めています。私たちは、古い制服から新しい制服に衣替えです。学校も、みなさんも、「脱皮」です。

「宇宙は生きている。人間は生きている。蛇が衣を脱ぐごとく、人は昨日の己を(中略)後ざまにけって進まなければならない。個人も国民も(中略)、新たに生まれなければならない。」(明治期から昭和にかけてのジャーナリスト徳富蘇峰の言葉)

「脱皮」のためには、力が必要です。学校、保護者、皆さんの力です。

私は、この3月、定年退職を迎え、4月からは、教育委員会での仕事と大学の講義を兼務します。しかしながら、創立50周年の学校・同窓会組織から、顧問の委嘱を受けましたので、これから始まる創立50周年までの3か年のアニバ―サリー、皆さんが卒業の年に開かれる創立50周年の年が終わるまで、もう少し、安城東高校の教育活動に関わります。

校長としては、これが皆さんへの最後の言葉ですが、顧問として最初のご挨拶となります。どうぞよろしくお願いいたします。

愛知県立安城東高等学校第3回生・第14代校長(2021年4月〜2023年3月) 村瀬 正幸