令5 第46回卒業証書授与式より(R6/3/1)「on the way 人生は三寒四温」

式 辞

寒かった冬の日々に比べて、少しずつ暖かい日が入り混じるようになってきました。「三寒四温」という言葉がありますが、それは、寒い日が三日、暖かい日が四日というように、寒い日と暖かい日を繰り返しながら、次第に春になっていくという、ちょうど今の季節の気候を表す美しい日本語です。今年は2月の下旬から、日ごとの寒暖の気温差が、やや大きかったかもしれませんが、確実に春は近づいてきています。

そんな季節の変わり目の中、弥生三月早春の今日の良き日に、来賓の皆様のご臨席を賜り、愛知県立 安城東高等学校 全日制課程 普通科の卒業式を無事挙行できますことを、心より感謝申し上げます。

また、保護者の皆様、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。教職員一同、心からお祝い申し上げます。まだ子育てが終わったわけではありませんが、高校卒業は、お子様の自立に向けた一つの大きな節目として、少しほっとされたのではないでしょうか。私も今、自分の子供が高校を卒業した時のことを思い返すと、嬉しいような寂しいような、長かったようなあっという間だったような、そんな感慨に浸ったことを思い出します。

 

さて、四十六回生のみなさんは、三年前の令和三年四月に、安城東高校へ入学してきました。入学前の中学三年生の時には、その年から本格化した、新型コロナウィルスによる社会的混乱の中で、休校に続いて学校行事の中止や延期が相次ぎ、とても不安な受験生生活を送っていたでしょう。そんな不安な生活が続いている最中に、みなさんは縁あって本校へ入学したわけですが、みなさんは今、今日までの三年間の高校生活をどう感じているでしょうか。努力が実を結び、充実していたでしょうか。逆にうまくいかずに不充分だったでしょうか。それとも努力をしようとしても、コロナのせいで、せっかくの高校時代、青春時代が不完全燃焼だったと感じているでしょうか。

充実していたのであればそれに越したことはありませんが、しかし、どのような高校生活であっても、それは英語で言うon the way 、つまり人生の旅の途中のことであり、みなさんにとって、まだまだ先の長い道のりの一部でしかありません。人はみな、完成することのない道を、三歩進んで二歩下がりながら生きており、みなさんも今後の生き方次第で人生は大きく変わっていきます。ここで私が敢えて言いたいことは、これからもずっと現状に満足や絶望すること無く、常に道の途中だという認識の中で、しっかり前を向いて進んでいってほしいということです。

ドイツの文豪ゲーテは、「旅をする目的は、到着ではない。旅をすることそのものが目的なのだ」と言いました。また、アメリカの小説家であるヘンリー・ミラーは、「旅の目的地というのは、決して場所であるのではなく、物事を新たな視点で捉える方法である」と言いました。どちらの言葉も、旅を人生に置き換えると、人生はその過程や物事の見方を楽しむものだと解釈できます。そして、どの道を選ぶかよりも、選んだ道をどう生きるかが大事だとも解釈できます。その意味で我々は、常に新たな視点を持ちながら、生きている限り学び続けるべきなのだと思います。それを一言で言うならば「生涯学習」です。

また、人は生きていく過程で、常に喜びと悲しみや、成功と失敗、そして幸福と不幸を繰り返します。それらは丁度、早春の三寒四温の気候のように移り変わります。古代中国ではそれを「禍福は糾える縄の如し」「人間万事塞翁が馬」などと表現しました。また、英語でも似たような意味で、「Sadness and gladness succeed each other.」「Good luck and bad luck alternate like the strands of a rope.」といった表現があります。今後みなさんが生きていく上で、悲しみや失敗があっても、常に道の途中だと思いながら、心折れること無く、次に必ずやって来る春の喜びや成功へのチャンスに向けて、努力をして下さい。他のことわざで表現するなら、決して七転八倒になることなく、七転び八起きとなって下さい。それが私のみなさんに対する願いです。

さらにもう一言付け足すならば、幸福は心の持ち方による、極めて相対的なものでもあります。寒さがあるから暖かさを感じることができるのです。ぜひ三日間の寒い日ではなく、四日間の暖かい日に焦点を当てることができる、前向きな考え方を養って下さい。

昨年四月に、令和七年の本校創立五十周年に向けた今年度のスローガンを、「安城東高校の挑戦 それは青春応援団」とし、「青春時代は貴重な時間だから、悔いなく過ごそう。」とみなさんにお伝えしました。その意味で、コロナによってさまざまな規制がかかった三年間が、貴重な青春時代なのに物足りなく感じた人もいるかもしれません。しかし、私はこうも言いました。「青春は気持ちの問題である。何歳になっても気持ちがあれば青春時代である。」実は、これも先ほど述べたことと同じです。何歳になっても、現状に満足や絶望すること無く、常に道の途中である、そして青春である。という認識の中で、前を向いて進んでいってほしいということです。

最後に、本日配付される「碧海野だより第一五四号」に書いた私の文章の中に、私が作った沓冠折句の和歌が載っていますが、そのうちの一つをご紹介したいと思います。ちなみに沓冠折句の意味は、「碧海野だより」を読んでみて下さい。

来(こ)し方が 例ならざらん 離(か)れたらば 爛漫とあれ 求めん道よ

その意味は、「卒業して安城東高校を離れたならば、既に成長したみなさんが、それまで歩いてきた道を振り返って見た時に、今までと違ったものに見えてくるだろう。そして今後みなさんが求めていく道が、春の咲き乱れる花のように輝いていってほしい。」ざっとこのような意味です。

それではみなさんの輝ける未来における活躍と、御参会の皆様方の御健勝と御発展を祈念して、式辞といたします。本日は四十六回生のみなさん、そして保護者の皆様、ご卒業、誠におめでとうございます。

 

令和六年三月一日  愛知県立安城東高等学校長 近藤和巳