「プライド」という名の劇場

〇令和4年9月1日(木)、今日は2学期始業式です。このご時世、こうして2学期始業式を迎えることができたことを大変嬉しく思います。みなさんは、いかがお過ごしでしたでしょうか。

〇今日は、「プライド」について考えてみようと思います。「プライド」といえば、透明感のある歌声の今井美樹(クリック!)を思い浮かべるのは、私だけでしょうか?
(「星に願いを、月に祈りを捧げるために生きてきた・・・」、「優しさとは許し合えること・・・」、「自由と孤独・・・」、「いつか私も空を飛べるはずとずっと信じてた・・・」、この歌には素敵なフレーズがいっぱいありました!平成8年(1996)にリリースされた曲でした。)

〇それでは、オンライン動画配信を止め、スピーカーという「くちびる」から流れる言葉で「プライド」を語ります。言葉に耳を集中させ、それが描く光景を想像しながら、その意味をつかみとってください。

〇私がこの夏に、東京駅で発見したあるチームの特徴を2つ話します。どんな集団でしょうか?
・特徴1:服装は、白・紺交じりのさわやかな服装です。帽子はハンチングハット、たぶん平均年齢は50再程度の、男女のチームです。

・特徴2:東京に行くたびに、一列に並んだ5~6人のチームが、私に深々とお辞儀をして迎えてくれます。彼らはその後、さっさとあることをなし終え、すぐに私の前に一列に並んで、再度お辞儀をして立ち去ります。

〇どんなチームか分かりますか?担任の先生は、数人の生徒に聞いてみて下さい。このチームは、「〇分間の奇跡」起こすチームとして、一時期マスコミでも取り上げられ、本も多数出版されました。アメリカの大学のビジネススクールからも視察団や学生がこのチームに学ぼうと、研修に訪れているくらいで、海外のWEBでも紹介されています。
さて??

〇そのチームは、JR東日本の子会社で、新幹線の掃除を担当している鉄道整備会社、通称テッセイ(TESSEI)社員、「新幹線清掃員」です。では何が「奇跡」か?
もう一度詳しく観察しましょう。

観察1:列車がホームに入る3分前に、1チーム20人程度、が5~6人ほどのグループに分かれて、ホーム際に整列して、列車が入ってくるとお辞儀をして出迎えます。降りてくる客には、1人1人「お疲れさまでした」と声を掛けています。

観察2:車内1両(100人、長さ約25m)を1人で、様々な道具を使って、清掃をしています。25mの車両を突っ切り、座席の下や物入れにあるゴミを集め、次にボタンを押して、座席の向きを進行方向に変えると、今度は100のテーブルすべてを拭き、窓のブラインドを上げ、窓枠を拭く。座席カバーを交換する。WC・洗面台も清掃しています。

観察3:手こずっている人には、助けが入り、指で指しながら、最終確認をして清掃を終え、チームは再び整列し、ホームで待っている客様「お待たせしました」と声を掛け、再度一礼して、次の持ち場へ移動し、ホームで客を案内している人もいます。

〇私が見たときには10分程度でしたが。テッセイが見せてくれた美しい姿に芸術性を感じました。本校の清掃時間と同じぐらいですよね。これが、「7分間の奇跡」と紹介されました
(始発の朝6時から最終の23時まで、早組と遅組の2交代制でこの作業を行い、1チームが1シフトで、多いときには約20本の車両清掃を行う。JR東日本で運行する新幹線は1日約110本、車両数にして1300両。これを正社員、パート含めて約820人程度、平均年齢52歳の従業員で清掃をしています。)

◎では、その清掃員の手記を読みます。読み手は2年生国語科の高須先生です。

「私はこの会社に入るとき、プライドを捨てました。清掃は汚い仕事であると思っていたからです。でも、この会社に入って、仕事を続けていくうちに、新しいプライドを得ました。この会社は、清掃の会社ではなく、おもてなしの会社なのだ、と。お客さんにお辞儀をするかどうか相談したことがあります。<清掃の会社なのだから、掃除だけをきちっとやればいい。客へのお辞儀や声掛けは自分たちの仕事ではない>と反発する声もありました。でも、自分たちの仕事は清掃だけではない。お客様に気持ちよく新幹線をご利用いただくことだ、清掃の会社ではなくおもてなしの会社なのだから、ここは旅する人たちが日々行き交う劇場だという話になりました。今や、私たちは、お客さまの旅を盛り上げるキャストなのだと思っています。いかにお客様におもてなしをし、旅を盛り上げるか、と1人1人の従業員が考え始めると、様々なアイデアが湧いてくるものです。お客へのお辞儀や、チーム一列の整列出場、退場もそんな中で生み出されてきたものなのです。新入社員は、まずそういう形を学び、真似するところから育っていきます。そして一人前になると、自分で創意工夫を生み出していきます。そこから生まれる自発性が、テキパキとした動きや、お客に対する<真心のこもった一礼>となるのです。」テッセイ(TESSEI)

〇この清掃の光景と手記を知った時に、私は、プライドとリスペクトの呼吸のような息遣いを読み取りました。プロの清掃員としての心構えが、人々のリスペクト(尊敬)をもたらしたこと、そのリスペクトが、めぐりめぐって清掃員のプライドを培っていったこと、その培われたプライドが、また新たなリスペクトの念を引き起こしていることに気付きました。人に対するリスペクトが生み出す「プライドのバタフライエフェク(クリック!)」と言ってもよいでしょう。

〇新たな知恵やアイデアの原動力はここにあると思います。やがてそれが、働きがいにつながったり、生きがいにつながったり、人生を豊かにするということです。様々なプライドの形があると思いますが、この「劇場」では、独りよがりのプライドではない、確かなものがあると感じます。

〇かつて、この清掃員の方々の仕事は、3Kと呼ばれていたそうです。きつい・きたない・きけん、希望ない仕事のように思われていた。それが今や別の3K、つまり、感謝・感激・感動の職場となっているのです。

〇これは、働くことと自分の人生との関わりを考えさせてくれますが、仕事だけではありません。誰にでもできそうな簡単なこと、ささいなこと、小さなことと評価されがちなことでも、考え方・やり方次第で、周辺からのリスペクトが生まれ、めぐりめぐって自分の確かなプライドにつながるのではないでしょうか。

〇さあ、新しい2学期の始まりです。2学期は、様々な「選択」の学期です。大学、文・理系の選択があります。とともに、「リスペクト・プライドの秋」の始まりです。自分にはない、できない面を持っている人や知恵に対して、尊敬の念を「リスペクト!」と言葉に出して、ささげてください。それが、確かなプライドを培い、人を輝かせます。
この2学期、どんなことでも良いです。リスペクトとプライド持った輝く皆さんの姿を私は記録し、記憶したいと思っています。

◎再度、次の手記を紹介します。

「お辞儀、あれはパフォーマンスでも何でもなく、安全のためなんです。新幹線の車両の重さは、一両で約50トンです。10両編成なら500トンです。これが時速70キロでホームに入ってきます。その新幹線に、体重が50キロ程度の人が触れてしまったら、悲惨なことになります。スタッフだけでなくお客様をそのような危険な目に遭わせないようにしなくてはなりません。もしもそこでスタッフがぺちゃくちゃおしゃべりをしていたら、お客さまの危険な状態を見過ごしてしまうかもしれません。お辞儀をしながら緊張感を持って異常事態に備えておくということはスタッフにとっても、お客さまにとっても安全上重要な意味を持っています。」テッセイ(TESSEI)

来週から、本校の清掃は当番制になります。この、TESSEIが見せるのは、「清掃の時間」ではありません。「新幹線劇場のショータイム」です。それでは、ハーバード大学経営大学院で教材化されたこの「7分間の奇跡」、その光景をご覧ください。動画の配信を再開します。

「真心のこもった一礼」にも、深い意味があります。以上で終わります。

*「7分間の奇跡」の内容については、コチラをクリック!

村瀬@学校長