朗読「日日是好日」

朗読 「日日是好日」

                       愛知県立安城東高等学校 筑間朱星

(安城市立桜井中学校出身)

私は土曜日になると、必ずお茶に行った。炭の匂いと、松風の中で、自分を考えることから切り離し、ひたすら五感に心をすます。障子を透かした白い光の中で、誰かがサラサラと茶筅を振るのを見つめ、和菓子を食べ、熱いお茶を飲み、フーッと息を吐く。

(ああ、私は季節の一部なんだな。こうして、つながっていればいいんだ)

胸の奥から、そんな感情がわいてきて、突然わけもなく、涙で目の前が曇ったりする。そして、来た時とは全くちがうすがすがしい気持ちで、帰って行く。現実を生きるために、お茶に通った。

二〇〇一年一月六日、午前十一時半。先生の家で、恒例の初釜が始まった。「みなさん、明けましておめでとうございます」「明けまして、おめでとうございます」

勢ぞろいして、挨拶が始まった。先生は、こげ茶色の一つ紋を着て、畳に手をついたまま続けた。「私のような至らない者に、みなさん、長い間付いてきてくださって、本当にありがとうございます。心から感謝しております」

なぜ先生は改めて、そんなことを言ったのだろう。不意をつかれて、思わず胸がじーんとなった。「・・・・・・・・・」

思えば、私が二十歳でお稽古を始めた時、先生は四十四歳だった。あれから二十四年が過ぎて、私はあの時の先生と同じ四十四歳になり、先生は六十八歳になっていた。娘さんが結婚して、今では孫もいる。

羽二重餅のようにふっくらしていた「武田のおばさん」は、瘦せて小さくなり、そして、相変わらず身ぎれいだった。

まわりとのお付き合いはだいじにするけれど、ベタベタとつるむ事はなく、「私は○○だと思うわ」と、パキパキしたハマっ子言葉で自分の考えをはっきり言い、誰の前でも、態度や声色を変えることがない。歳月が流れても、先生は変わらなかった。

                              「日日是好日」より

●これは、放送部/世紀のダヴィンチを探せ! 高校生アートコンペティション 作品名 日日是好日(にちにちこれこうじつ)(クリック!)において入選した朗読作品です。