生徒エッセイ「私の個人的な体験と高校生活で見つけたこと」

●令和4年度入学生から、安城東高校は新しい学び(授業)を用意しています。それは、すでにご案内の通り(クリック!)、「グローカル・スタディーズ(GLS)」です。グローバルな視野をもち自己の足元を見つめ、ローカルな視点で行動できる人材育成のための学習です。

●すでに、普通科国際理解コースで学んでいる生徒は、GLSの視点で学習を進めています。それを、令和4年度入学生には、文系理系問わず、全員の必履修の学びとして位置付けています。

●下記は、国際理解コース3年生に在籍する安城東高校生がまとめたエッセイです。GLSが目指すところが、このエッセイに表現されています。

●自分の個人的な体験や義務教育での学びが安城東高校国際理解コースでの学びにどのようにつながったか、国際理解コースではどんな活動ができたか、まとめています。高校時代にこんなエッセイをまとめ、大学での学びの方向性を見つけること、それがGLSの理念の一つです。

 

エッセイ 「私の個人的な体験と高校生活で見つけたこと」

44回生 国際理解コース3年生在籍

 私は、自動車部品を扱う父親の仕事の関係で、小学校1年生から4年生まで上海で暮らしました。ちょうどその頃、歴史認識問題や領土問題が中国のマスコミで大きく報じられ、学校に石を投げられたり、タクシーに乗せてもらえなかったりする嫌がらせを受けるとともに、近隣に暮らす中国人から、日中間の不幸な歴史だけでなく、歴史・経済・文化・スポーツの交流に関する話を家族ぐるみで聞く機会をもつことができました。この時、他者の視点から自らを見つめることが大切であること、他者との関係性の中で自らの位置が定まることを学びました。これが私の初めての異文化体験です。

日本に帰国し、義務教育課程を終えると、私は、40年にわたる国際交流の歴史をもつ地元の全日制普通科高校に進学しました。その高校では、普通科に国際理解コースが1クラス設置されており、経済・社会・文化の持続可能性をテーマに、生徒の自主的な探究活動が行われていることが私にとっての魅力でした。私の住む愛知県西三河部は、内陸部には自動車関連のグローバル企業やそれを支える数多くの中小企業、周辺部には大規模集約型農業、沿岸部には農業・漁業とともにエネルギー産業が立地している多様性に富んだ地区で、南米・アジア系を中心として多様な国籍をもつ外国人労働者がたくさん暮らしています。

私は高校1年次に、国際理解コースの行事であるシンガポール研修に参加し、上海にいた頃とは異なる文化を体験することができました。シンガポールは世界を代表する多民族国家であり、中国系、マレー系、インド系など多様な民族で構成されており、町では様々な言語が飛び交っていました。その中で、観光産業が国の大きな財源になっていることを知り、多彩な異文化を利用したインバウンド政策が人々の暮らしを支えていることに気付きました。チャイナ・タウンやアラブ・ストリート、リトル・インディアといった民族の伝統・文化を保存する地域は、観光客から人気があります。それに加えて、マリーナ・ベイ・サンズ、ガーデン・バイ・ザ・ベイなどの個性的な体験ができる場所もあります。これは、その地にもともとあった文化とそれとは異なる文化との融合により、新しい価値を生み出した事例ではないかと思います。また、シンガポールは、地理的立地を利用し各国をつなげるハブとして空港を機能させることによって外国人が立ち寄る機会を増やし、それを観光収入に繋げています。人々の交流の結節点としての役割が経済成長に大きく影響を与えるということをこの研修で学びました。これが私の2度目の異文化体験です。

高校卒業後の進路を具体的に考え始めた頃に始まったのがコロナ禍です。コロナ禍は、高校生活だけでなく、これまでの日常や常識を問い直すことを求めました。そんな中で私が得たのは、自らの生活の拠り所である「地域」という視点の大切さです。コロナ禍の感染者数の変化は、地域ごとに大きな違いがありました。そのため、全国同一歩調で進めることと、地域ごとに異なる対応がありました。しかしながら、私たちにとって、移動や行動が制限されるのも、雇用や消費が抑制され経済活動の停滞が始まるのも、何よりも感染の場そのものが「地域」であることに変わりがないということです。「地域」という視点を出発点に、物事を捉え直すことの必要性を感じています。

私が在籍した国際理解コースでは、SDGsの視点から、世界や日本の様々な地域の課題について学びました。そこでは、「地域」は、それを捉える人の関心の所在によってその空間領域を伸縮させ、可変的に対象地域(領域)を設定できることを学びました。この地域設定の手法は、課題そのものを複眼的に捉えさせてくれます。私が暮らした上海や訪問したシンガポールをアジアという枠組みで捉えたり、その都市の中の外国人居住区という枠組みで地域を設定したりすることで、様々な地域の顔が見えてくるということです。この見方を私はとても大切にしています。

コロナ禍により、訪日外国人需要もほぼ消滅し、航空・運輸、観光関連サービスは大きな打撃を受けましたが、その収束状況を見極めつつ、新たな受け入れ体制の整備とコンテンツの工夫が始まっています。3密を回避する小規模・少人数ツアーの工夫や屋外での行動の奨励は、必然的に、日本の各地域にある地方都市の自然・歴史・文化の再評価に向かうでしょう。そのため、その地域に暮らす外国人を含めた他者の視点を取り入れて、多様な視点で地域文化を再評価し、それを発信し、地域経済活性化へ繋げる取組に関心を抱くようになりました。それは、地域から発信する多文化共生の提言にも繋がります。

私は、滋賀県周辺の立地環境にとても関心をもっています。滋賀県は、京阪のベッドタウンに位置付けられ、日本各地で人口減少が進む中で人口が増加している数少ない自治体の1つです。関西・北陸・東海地方への結節点としての地の利を生かして、大企業や研究所の集積が進んでいます。また、琵琶湖とその水辺景観は、何よりも私の大好きな「水の文化」を育んでいます。私の2度にわたる異文化体験や在籍した高校の国際理解コースでの学び、コロナ禍での新しい高校生活は、大学における研究テーマ「新たなインバウンドによる地域創生と多文化共生」につながりました。

 

「安城東高等学校<普通科>国際理解コースで学んだこと」

私は、全日制普通科の中の国際理解コースに所属しています。特に学校生活で力を入れてきたのは、国際交流活動や異文化理解です。

1年次には、シンガポール・マレーシア研修に参加し、多民族国家である2つの国で多文化共生について学びました。マレーシアの学校に訪問した際、現地の学生と一緒に昼食を食べた時に、ご飯を箸で食べる学生もいれば、手で食べる学生もいて、最初はその光景を異様だと感じました。しかしながら、現地の学生と話していると、そのことが彼らにとって当たり前であることが分かり、お互いを尊重しあう学生たちの姿を見て、自分の考えの視野の狭さに気付きました。その経験から異なる文化を理解する大切さを学びました。

2年次には、小学校への英語授業訪問、イングリッシュキャンプ、SDGsについてのポスターセッションなどを行いました。小学校訪問では4年生に英語の授業を行い、絵本の読み聞かせや英語を使ったアクティビティをしました。どんなゲームをしたら全員に楽しんでもらえるかを事前に考えたり、どうすれば英語の絵本の内容を楽しく理解してもらえるかを考えたりして、仲間と共に何度も打ち合わせや練習を重ねました。小学校へ訪問する前は、子どもたちが心を開いてくれるのか不安でしたが、訪問日の授業では、生徒たちは一つひとつの活動に一生懸命に取り組み、とても楽しそうに参加してくれました。学校で学んだことを生かすことの楽しさやそのやりがいとともに、英語をまだ知らない生徒たちに、興味関心をもってもらうことの難しさも感じました。

イングリッシュキャンプ(クリック!)では、ALTの先生方との英語を介した交流を通して、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ジャマイカについて理解を深めました。始めは、自分の気持ちを上手く言葉にすることができず悔しい思いをしましたが、最終的には身振り手振りをつけながら会話を楽しむことができました。その日以来、もっと英語を学んで自分の思いをうまく伝えられるようになり、相手の話の内容をもっと正確に理解できるようになりたいと思い、英語学習により一層力を入れるようになりました。特に英語の音読を毎日欠かさず行いました。そのおかげで英語力が上がり、以前よりもALTの先生の言葉を正確に聞き取ることができるようになりました。

私が授業で力を入れたことは、SDGsについてのポスターセッションです。私は身の回りの水がどのように供給されているのか、どのような環境問題につながるのかを調べて発表しました。情報を収集するために地元の明治用水会館を訪れ、世界と日本、そして地域の水問題について深く研究しました。「水」を取り巻く文化について関心を持ち始めのもこの頃からです。3年次の文化祭では、ポスターセッションで発表したことを生かして海の汚染問題についての展示を行い、広く在校生にアピールしました。私はチームリーダーとしていくつかの提案し、在校生が分かりやすい企画を作ることができました。その結果、展示部門審査では入賞することができました。また、2年次には、韓国からの留学生と交流しました。お互いの趣味を共有したり、積極的にコミュニケーションをとったりすることによって相手の国のことはもちろん、普段なかなか気付けない日本のすばらしさを再認識しました。自分とは異なる他者の視点が大切であることを実感できました。また、複雑な日韓関係があるにもかかわらず、心を通わせることが可能であり、歴史の壁を越えられたように感じました。

高校の国際英語の授業では、3年間通して様々な社会問題についてディベートやディスカッションを行いました。その中で自分とは異なる意見や自分の考えにはなかった発想に触れ、様々な視点から物事を捉えられるようになりました。自分の意見を相手に説得力をもって伝えるためには、主張の根拠となる資料と主張の論理性が大切であることも学びました。

以上のことが、私が高校生活で力を入れたことです。私は、課題を発見し探究する際に心がけていることがあります。それは、グローバルな視野で物事を捉えつつも、ローカルな視点で行動することの大切さです。私たちの生きる場は「地域」であり、それをフィールドとして活動していきたいと考えています。

*この生徒は、第1志望校である国立大学経済学部への進学を果たし、現在、大学生として研究と部活動に励んでいます。