令6 第47回卒業証書授与式より(R7/3/1)「人生如水 on the way」

式 辞

本日三月一日は、暦の二十四節気で言うと、立春の次の雨水から啓蟄の間にあたります。二十四節気とは、一年を季節に合わせて二十四に分けた区分のことで、立春、春分、夏至、秋分、冬至、大寒などがあります。雨水とはあめとみずと書いて、冬の雪や氷が雨や水に変わる頃を指します。また、啓蟄の「蟄」とは冬眠している様子を言い、「啓」とは行動を起こすことです。つまり啓蟄とは、冬ごもりをしていた生き物が、穴から出てくることをいいます。

そんな季節の変わり目の中、弥生三月早春の今日の良き日に、来賓の皆様のご臨席を賜り、愛知県立 安城東高等学校 全日制課程 普通科の卒業式を無事挙行できますことを、心より感謝申し上げます。四十七回生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。また、保護者の皆様、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。教職員一同、心からお祝い申し上げます。高校卒業は、お子様の自立に向けた一つの大きな節目として、少しほっとされているのではないでしょうか。

さて、四十七回生のみなさんは、三年前の令和四年四月に、安城東高校へ入学してきました。安城東高校は、愛知県の中心を流れる矢作川や、安城市が農業都市として成功をおさめる源となった、明治用水の近くに位置しています。川と用水と田園に囲まれた、自然豊かな安城東高校での三年間は、嬉しかったことも辛かったことも、川の流れのように瞬く間に過ぎ、その成長のあかしが稲穂のように、みなさんの心の中に実ったことでしょう。今、みなさんは、二十四節気の雨水のように、高校生から生まれ変わろうとし、また啓蟄のように、新たな世界に向かって行動を起こそうとしています。

人生はよく水の流れに例えられます。例えば古代中国で成立した『老子道徳経』では、「上善水のごとし」といって、柔軟に形を変えながら、強い性質をもつ水のように生きることを説いていますし、鴨長明の『方丈記』の冒頭部分「ゆく川の流れは絶えずして」も有名です。空から舞い降りた一滴の雨粒が、上流の小さな川から大きな河へ成長して広い海へ合流し、やがて水蒸気に生まれ変わった後に、また地上へ降り注ぐ。そんな水の循環のように人は成長し、また次の世代へバトンを渡していきます。その例えをみなさんに置き換えるなら、一滴の滴として生まれたみなさんは、川幅が狭くて急な流れの上流で、あちこちの岩にぶつかりながら思春期を過ごし、しだいに川幅も広がって水量も増え、安定した流れになりつつあるのが現在の状態ではないでしょうか。位置的には、「社会」という名の広い広い海の近くにいるはずです。卒業後に就職する人は既に河口寸前ですし、進学する人は河口手前数キロメートル辺りでしょうか。みなさんは遅かれ早かれ、海に出なけばいけません。でも、社会という海の中で、いつか波にもまれ、おぼれそうになることもきっとあるでしょう。そんな時は原点に立ち返って、安城東高校での三年間を糧に、広い視野をもって、足元をしっかり見ながら前に進んで下さい。また、水のようにしなやかで強い存在でいて下さい。そしていつの日か校訓である「達」の境地に至り、次の世代へ恵みの雨を降らせることができるように成長していって下さい。

また、人生は旅にもよく例えられます。それに関連して、私が卒業生を送る時にいつも言っていることがあります。それは、今、自分の人生の旅に不満足であっても、満足していても、それは英語で言うon the way、道の途中であるということです。つまり、今どのような状態であったとしても、人生の旅の途中のことであり、みなさんにとって、まだまだ先の長い道のりの一部でしかないということです。人はみな、完成することのない道を、三歩進んで二歩下がりながら生きており、みなさんも今後の生き方次第で人生は大きく変わっていきます。ここで私が言いたいことは、これからも常に人生の旅の途中だという認識の中で、現状に絶望して下を向かず、また、満足もせずに上を向いて進んでいってほしいということです。

ドイツの文豪ゲーテは、「旅をする目的は、到着ではない。旅をすることそのものが目的なのだ」と言いました。また、アメリカの小説家であるヘンリー・ミラーは、「旅の目的地というのは、決して場所であるのではなく、物事を新たな視点で捉える方法である」と言いました。どちらの言葉も、旅を人生に置き換えると、人生はその過程や物事の見方を楽しむものだと解釈できます。そして、どの道を選ぶかよりも、選んだ道をどう生きるかが大事だとも解釈できます。その意味で我々は、常に新たな視点を持ちながら、生きている限り、学び続けるべきなのだと思います。

また、人は生きていく過程で、常に喜びと悲しみや、成功と失敗、そして幸福と不幸を繰り返します。「禍福は糾える縄のごとし」「人間万事塞翁が馬」などといった言葉にもある通り、今後みなさんが生きていく上で、喜びや成功があっても、逆に悲しみや失敗があっても、常に道の途中だと思いながら、慢心することなく、心折れること無く、未来に向けて努力を続けて下さい。それが私のみなさんに対する願いです。

それではみなさんの輝ける未来における活躍と、御参会の皆様方の御健勝と御発展を祈念して、式辞といたします。本日は四十七回生のみなさん、そして保護者の皆様、ご卒業、誠におめでとうございます。

令和七年三月一日  愛知県立安城東高等学校長 近藤和巳