「あたらしい風景」を描く

「あたらしい風景」を描く

校長 村瀬 正幸

かかわらなければ

この愛しさを知るすべはなかった

この親しさは湧かなかった

この大らかな依存の安らいは

得られなかった

この甘い思いや

さびしい思いも知らなかった

人はかかわることから

さまざまな思いを知る

子は親とかかわり

親は子とかかわることによって

恋も友情も

かかわることから始まって

かかわったが故に起こる

幸や不幸を

積み重ねて大きくなり

繰り返すことで磨かれ

そして人は

人の間で思いを削り

思いをふくらませ

生を綴る

何億の人がいようとも

かかわらなければ路傍の人

私の胸の泉に

枯れ葉いちまいも

落としてはくれない

(塔 和子「胸の泉に」、同『未知なる知者よ』1988所収)

 卒業生のみなさんの高校生活は、「新しい日常」作りを目指した3か年でした。人との距離の取り方や集団での振る舞いの在り方が人間の「いのち」に深く関与するという事態は、高校生活をどのように綴るのかという課題を私たちにも提示しました。

また、私たちの「いのち」、人間の尊厳は、人や環境とのかかわりの中で支えられていることも学びました。詩人塔和子さんが謳う「胸の泉に」浮かぶ枯れ葉が作る様々な波紋こそ、生を綴ることであり、これからどんな事態が押し寄せようとも、尊厳ある生活に欠かせないものであると思います。

人生は、山あり、谷あり、だからこそ美しい。その風景は、人や自然とかかわることで美しく描かれるのです。この意味を噛み締めて、これから「あたらしい風景」を描いていってください。第45回生のみなさんのご検討をお祈りいたします。

2023年3月3日 第45回卒業証書授与式 によせて