安城東高校44回生(令和3年度卒業生)に贈る言葉

●令和4年3月1日(火)、本日、安城東高等学校第44回卒業証書授与式が行われました。昨年度と同様に、在校生は各HRでのオンラインによる参加です。

●授与式が行われた体育館においては、PTA会長・副会長、卒業生とその保護者、学校評議員の方、400名を超える保護者の方に出席いただきました。

●これまで生きてきた年月よりもはるかに長い年月をこれから生きていく卒業生の皆さんの最大の強みは、未来へと続く長い時間が与えてくれる挽回と再挑戦の機会です。式辞では、まず、保護者の皆様のこれまでの子育てに教職員と卒業生で拍手を送り、続いて、この挽回と再挑戦の機会を活かしてほしいとの願いから、次のことを伝えました。

 

 

「卒業生の皆さんは今、どのような気持ちでこの式に臨んでいるのでしょうか。三年間を振り返れば、楽しい思い出とともに、困難にぶつかり苦労したこと、辛い思い出もあったと思います。それらを乗り越え、本日の卒業式を迎えられた皆さんは、入学した時と比べて、はるかにたくましく、また人間的にも大きくなったと思います。そのような皆さんを私は誇りに思います。

皆さんは、令和元年四月に、夢と希望に胸を膨らませ、本校の門をくぐりました。本校の教育活動の特色は、昇降口前の石碑「文武」にあります。今年、本校同窓の先生が新しく塗り直してくれました。三年間、昇降口から出入りするみなさんを静かに照らしてくれていましたね。「文」と「武」は別々のものではありません。どちらも外せない大切な道、「文武一道」です。これを求めるためには、時間の使い方の工夫とずば抜けた集中力が必要です。私の高校時代に建てられたこの石碑が語る「道」を、今でも私はとても大切にしています。

二年生に進級する頃には、新しい事態が人類を襲いました。未知の感染症が拡散し、今もその渦中にあります。これまで当たり前のように行われてきたことが、実は当たり前のことではなかった、毎日の手洗いの仕方から友達との会話の距離の取り方までもが私たちの命と密接につながっていることを知り、私たちは、学校における「新しい日常」作りを求められました。それとともに、作家カミュが80年近く前に書いた作品『ペスト』で記した、不安や恐怖にさいなまれた人間の思考特性までも目(ま)の当たりにしました。

このコロナ禍初年度には、いろいろな制限がありながらも、学校行事の内容や日程を組み替えて、修学旅行も実施することができました。「築こう僕らのアオハル」をテーマにした今年度の東高祭では、コロナに配慮した新しい種目や企画も登場しました。一・二年生だけでなく私たち教職員も、エネルギーあふれるリーダー、三年生の取組に底力を感じました。東高の新しい学校文化の歴史を切り拓いてくれたことに、私はとても感謝しています。来年度、在校生は、さらに発展・継承してくれるでしょう。

さて、<人生とは選択の連続である。生きることは選ぶことである。>とよく言われます。「選択」とは、意思決定です。いくつかの選択肢を並べて、それぞれを論理的に比較検討して確かめていけば、おのずと1つの解にいたり、最適な意思決定ができるはずです。しかしながら、私たちは、自分の意思決定の確かさについて不安に思うことがあります。それは、比較検討するための十分な情報が不足しているからなのでしょうか。私はそうは思いません。意思決定に必要なすべての情報が揃っていることはまずありません。私たちが目を向けるべき大切なことは、自分の意思決定の結果に対して自らが責任を負うという覚悟と自覚の所在です。この覚悟と自覚を伴った意思決定を私は<決断>と呼ぼうと思います。皆さん方は、これからも引き続き、日々の<選択>から、人生上の大きな分岐につながる<決断>に至るまで、多くの意思決定の場面に遭遇するでしょう。自らの結果に対して責任を負う覚悟と自覚をもつ、決断力のあるリーダーになってほしいと思います。そのための学びがこれから始まります。学校に卒業はあっても、学びに卒業はありません。これからの学びは、みなが同じ速さで進む必要はありません。自分のペースで進めば良いのですよ。

皆さんは本日、<高校時代>という<アオハル>のステージから次の<アオハル>へと歩み始めます。皆さんは、これまで生きてきた年月よりもはるかに長い年月をこれから生きていくことになります。先行き不透明で予測困難な社会であっても、若者の最大の強みである未来へと続く長い時間は、皆さんに挽回と再挑戦の機会を提供してくれるはずです。東高での三年間の生活の中で経験したこと、出会った人々との思い出は、もはや<心の余韻>です。日本の武道、芸道の稽古で使われる言葉に、心を残す、<残心>という言葉があります。所作を終えた後、力を抜いたりせずに次の準備をしている状態を指します。人を慮(おもんばか)る優しい気持ちと深く関係する日本独自の美学や禅と関連する文化的な概念である心の余韻、<余情残心>の構えをもって、明日から歩んでいってください。

本日をもって、安城東高校が皆さんの母校です。皆さんを含め、一万六千二百十三名の同窓生の学校に対する思いは熱く、決断力のあるリーダーとして既に活躍しています。そして、新しい世界に進む皆さんの良き支援者となってくれることでしょう。

保護者の皆様には、この三年間、しっかりと学校を支えていただきました。特に、この二年間は、コロナ禍という新しい事態の中で、学校で感染症が蔓延することなく教育活動を続けることができていることに、大変感謝しております。ありがとうございました。

これからも安城東高校は、温かく皆さんの幸せを願って歩み続けます。」

●体育館退場後は、卒業生は本校のHR棟から見下ろせる中庭を通って1年間過ごしたHRに戻りました。中庭に面する生徒棟からは、在校生が別れを惜しみながら、思い思いのカタチで卒業生を見送りました。第44回卒業生の皆さんのご健闘をお祈りいたします。

  

(学校長)